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障害者が西陣織の技術を受け継ぎ、働きがいのある社会をつくる
〜西陣整経同業組合

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障害者が自身の持つ能力を発揮し、伝統産業の担い手として社会に貢献する「伝福連携」。西陣整経同業組合として、伝福連携を進めている渡部勝吾副理事長と河合隆理事にお話を伺いました。


左)河合隆さん 右)渡部勝吾さん

西陣織は京都を代表する絹織物の総称で、その起源は、秦氏が養蚕と絹織物の技術を山城の地に伝えた5、6世紀まで遡ります。応仁の乱の時に西軍の本陣が置かれた場所を中心に織物業が発展したため西陣織と呼ばれるようになりました。明確な西陣地域の境界線はありませんが、現在も主に上京区と北区で西陣織が生産されています。

職人の手によって、いくつもの工程を経て出来上がる西陣織。小川学区にある有限会社渡部整経では、西陣織の工程のうち「糸繰り(いとくり)」と「整経(せいけい)」を担っています。

糸繰りは、綛(かせ)と呼ばれる輪っかになった糸の束を糸枠に巻き取る工程のことで、整経は、巻き取られた糸で文字通り織物の「経糸(たて糸)を整える」工程を意味します。糸繰りの出来が整経に影響し、整経の出来が織物の品質を左右するため、織屋さんの注文通りに糸の本数や長さ、巾を揃え、糸の張り具合を整えるのに技術が求められます。


織屋さんから、先染めされた綛(かせ)状の糸が届きます。

綛(かせ)を上段にかけて、糸枠に巻き取ります。

床に並べられた糸枠。一本一本糸を上に引き上げて穴に通します。

さらに、糸は櫛のようなところを通り・・・

まっすぐ、均一の張力で巻き取られた経糸が完成。

3代目となる渡部さんが整経の仕事を始めたのは15歳の時。「父の下で、しぶしぶ始めたからねぇ。一人前になるまで時間がかかりました」と優しい笑顔で振り返ります。以来、60年以上整経業に携わるベテラン職人の渡部さんは、2011年から2020年まで西陣整経同業組合理事長を務めました。

整経は、静電気との戦いだそうです。糸が擦れると、静電気が起きて、糸が切れてしまいかねません。静電気を起こさないように濡れタオルを置いて工夫し、それでも「糸は切れるもの」と受け止めて、切れた糸を見逃さず、きちんとつないで元に戻し、対処するのだそうです。

経糸を準備する。言葉では簡単ですが、広がろうとする糸と向き合いながら、帯の場合は35センチ程の幅に3,000-5,000本もの経糸を並べることや、張力を一定にすることなど一つひとつの技を身につけるのは簡単ではありません。5年ほどまじめに仕事をして、ようやく一人前と呼ばれるようになるそうです。


静電気を抑えるために置かれたぬれタオル

糸繰り、整経業界が抱える大きな課題の一つが後継者不足。伝統産業における後継者不足は全国的に言えることですが、かつて20軒ほどあった渡部整経の仕事をしてくれた糸繰屋さんは3軒となり、渡部整経では糸繰りを内製化することにしました。また、西陣織の生産が盛んだった1970年代に150名ほどいた西陣整経同業組合員は、現在16名になりました。

80代の職人が現役で活躍する一方で、若い後継者がいません。元々しんどい割に、大して儲からない仕事で、このところの急激な受注の減少に「自分の代で終わり」と考える職人が多くなるのは仕方ないですが、分業のどこかが途切れたら、西陣が西陣織の産地として成り立たなくなってしまうことに危機感を感じています。

そうした厳しい状況の中で、障害者の就労支援施設である西陣工房では、平成16年(2004年)から「施設が伝統産業の後継者を養成する」というビジョンを掲げ、職員と障害のある利用者が熱意を持って伝統産業に貢献しようと技術の習得に励んできました。
その、西陣工房の施設長を務めているのが、整経業の家に生まれ障害福祉分野で働いてきた河合さんです。

西陣工房では、知的障害者によって糸繰りや整経が行われ、織物や京くみひもが生産されています。いずれも技術と根気が要りますが、知的障害者には手仕事を得意とする人は多く、上達することによって仕事での充実感も味わえます。

伝統産業の担い手不足を解消し、障害のある人がやりがいを感じる仕事をして社会に役立つような取組を、河合さんは「伝福連携」と名付けました。
障害者がやりがいを持って農業に携わり、社会に参画すると同時に、高齢化、後継者不足といった農業における課題解決を目指す「農福連携」が国や地方自治体によって進められているのを聞いて、河合さんは「京都市なら、農業ではなく伝統産業との連携だろう」と思ったのだそうです。
その思いを行動に変えて実践し、近年、京都市保健福祉局とも連携がはかられるようになりました。

この春(2021年4月)、西陣工房が新しくなり、ゆとりある空間で、障害者の個々の能力に合わせて働く環境が整いました。
「障害者が楽しく仕事ができる場でありながら、地域の地場産業に有益な存在になる場にしたいです。難しい仕事にどんどん取り組んで世の中に通用する品質の高い製品を作ることで、障害者は働く能力がないと思う世の中の認識を変えていきたいですね」と河合さんは語ります。
さらに、「例えば、支援学校で伝統産業を学ぶ科目を設け、74ある京都市の伝統工芸品の継承に障害者や福祉施設が積極的に関われるような施策を進めるなど、福祉、教育、産業、観光に携わる行政や業界が『オール京都』で連携を進めれば、伝福連携が広がるでしょう」と期待を寄せます。

糸繰りや整経では、品質の良いものを作ることで信頼関係を築いていきます。良い品を作ることに妥協はしませんし、そこには健常者や障害者の枠はありません。「西陣の人は畏まらず、気安く仕事を持ってきてくれる。肩肘張らずに長い付き合いができるところがいいね」と話す渡部さんと河合さん。これまでも、これからも、西陣織から「伝福連携」を進めていきます。


2020年、京都市の「伝福連携担い手育成支援事業」
として西陣織会館で行われた糸繰り体験会

2021年4月に竣工した西陣工房

西陣最大規模の糸繰り場となっています

有限会社渡部整経 〒602-0051 京都府京都市上京区上立売通り小川西入ル御三軒町27-1

西陣工房(社会福祉法人 京都西陣福祉会)
〒603-8333 京都市北区大将軍東鷹司町109番地の1
http://www.nishijinkoubou.com

レポーター

亀村佳都

西陣織の美しさは言うまでもありませんが、糸繰り・整経の工場を訪ね、糸が巻かれるところや、糸枠が並べられている様子、完成した経糸など、作業の流れや風景がとてもきれいで見とれました。障害のあるなしに限らず、得意なことや好きなことで社会の役に立てたら幸せだな、それが可能な場所で暮らしていきたいなと思いました。

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