鳴くよ鶯、平安京。794年、桓武天皇の遷都の詔によって新しい都となった平安京のことを手軽に学ぶことのできるスポットが、今回ご紹介する平安京創生館です。
「古典の日記念 京都市平安京創生館」(以下では親しみを込めて「創生館」と呼びます)は、京都アスニー(京都市生涯学習総合センター)に属する展示施設です。併設されている京都市中央図書館とともに上京区からわずかに外れて中京区内にありますが、誰でも無料で利用できて中身が充実しているという意味では押さえておきたいスポットです。
創生館に入っていくと目の前に大きな平安京復元模型(7.8m×6.6m。尋常でなく大きい)が展示されています。
この創生館の中心的な展示物となっている平安京復元模型(千分の一)は、平成6年9月に平安京建都1200年を記念して京都市美術館で開催された「甦る平安京展」のために制作・展示されたものです。その後、平成17年4月、京都アスニーの中に「平安京歴史ゾーン」が開設され、他の復元模型などと併せて展示されることになりました。翌年の平成18年10月には、スペースを大幅に拡張し展示物などの整備が行われて「平安京創生館」が開館されました。その後も度々展示の整備充実がなされ、今に至っています。
ちょうど開館10周年を迎えた創生館は、現在、これを記念する特別展も開催(~平成29年6月3日(土)まで)されています。
模型の近くには、オレンジのベストを着た案内ボランティアさんが熱心に案内をされている光景が見えてきます。
(レポーター)創生館の展示の見どころについて教えてください。
(古山さん)見どころは、平安京復元模型、陶板壁画上杉本洛中洛外図屏風、平安京跡イメージマップでしょうか。
平安京復元模型は、歴史学・考古学・地理学・建築学などの第一線の研究者が集まって、2年余りの期間をかけて作られたそうです。大きさと緻密さを兼ね備えた高い価値のあるものです。季節は初夏を想定し、野山は緑におおわれて田植えも進み、畑の麦も色づく季節を復元したと説明があることからも、この模型に関わった人たちの思い入れやこだわりの深さが想像できます。
上杉本洛中洛外図屏風の陶板壁画は、数ある洛中洛外図屏風の中でも国宝とされている上杉本の屏風を1.4倍のスケールに拡大して陶板で再現したものです。この屏風が表している時代は、室町時代の後期にあたります。当時の京都の街の季節ごとの行事や風景を詳細に描いたもので、描かれている人物の数は約2,500人にのぼります。この陶板壁画をゆっくりと見ていくと、京都のまちがどう変わっていったかがよく分かります。たとえば、現在の京都御所は江戸時代に大きくなったものですが、室町時代を表すこの陶板壁画では一町の広さで描かれています。
平安京跡イメージマップは、平安京から現在までの京都を重ね合わせた地図です。平安京の時代と現在をつなぐことのできる、平安京の説明には欠かせない貴重な資料です。
この3つの展示品は、同じ空間に展示されています。これで、平安時代から現在に至るまでの京都の街の変遷がよくわかります。
(レポーター)時空を超えた旅ができそうですね。創生館に来られるお客様にはどのような解説をされているのでしょうか。
(古山さん)基本的には、模型の由来や平安京の街の様子を説明しています。朱雀大路(現在の千本通)を中心として、北に大内裏(官庁街と内裏)、東西に左京と右京の町が配置される京(みやこ)の構成、左右京は四町を単位として東西の列を条といい南北の列を坊という条坊制、また大極殿や東寺を始めとして道長の法成寺や白河法皇の法勝寺などの当時の主要な建物や場所などを説明しています。
また、今の京都の街と比較した説明も必ず行います。自分の家はどのあたりになるのか、と聞かれる方も多いですし、朱雀大路を現在の烏丸通と勘違いされている方も時にはあります。
その他には、例えば、現在の葵祭のもとになった平安時代の賀茂祭を説明することがあります。当時は、斎王の行列が大宮通北にある賀茂斎院(現在の櫟谷七野神社(いちいだにななのじんじゃ)付近)から出発し、一条大宮で内裏からの勅使の行列と合流し、一条大路を東行して、東京極大路(寺町通)を北に向かって下鴨社、上賀茂社へ向かったというコースの話をします。そして、この華やかな行列を見るために一条大路に桟敷を作ったり、牛車を立て並べたりして、源氏物語の葵上と六条御息所との「車争い」はここで起きた、といったこともお話しします。
珍しい例では、一条天皇の皇后定子(ていし)の大ファンなので、藤原定子の住まわれていた場所を教えてほしいという東京からの方もいらっしゃいました。源氏物語のモデルとなった邸宅を教えてほしい、平家の邸宅を教えてほしい、といった方もいらっしゃいます。そういう時にはこの模型と平安京跡イメージマップが大いに役に立ちます。
また、平安京模型には、ちょっとしたお遊びもあって、六条大路北の河原院は、光源氏の六条院のモデルになったのですが、模型では源氏物語の六条院(春夏秋冬の四邸宅)を復元したものが入れられています。
(レポーター)ほかにも法勝寺、豊楽殿、鳥羽離宮などの復元模型や、映像コーナー、体験コーナーや特別展など盛りだくさんの展示品があるようですが。
(古山さん)それぞれ、平安京の時代のまちの姿、くらし、文化を感じ取っていてだけるよう工夫を凝らしたものです。このうち、体験コーナーは、平安時代の衣裳(袿、狩衣)を身にまとって写真撮影ができるコーナーで、最近特に若い人たちの人気スポットになっています。
(レポーター)カミングの読者の皆さんにメッセージがありましたらお願いします。
(古山さん)上京区はとても歴史の豊かな街です。平安京内では平安時代以来天皇のお住まいがあり、一条大路北方では足利義満の花の御所、両方に渡った豊臣秀吉の聚楽第など、政治の中心地があったところです。
平安時代でいうと、平安京内の大内裏と左京の町の北部、それに一条大路北方の郊外が上京区にあたります。平安京模型では、左京北部では高位の公家達の屋敷が立ち並んでいます。一方、郊外では、大宮大路を北に上ると賀茂斎院の御屋敷や、その先に雲林院(紫野院)、また、室町小路を北に上ると後の北朝の御所で有名な持明院がありますが、賀茂川から取られた水流や北山からの水流が、堀川を含めて幾筋か流れてきていて、自然豊かな風景も見ることができます。
地域がどのような自然や歴史を持ってきたか知ることは、心を豊かにすると思いますし、また今の街を見直すきっかけにもなると思います。是非、一度創生館に足をお運び頂きたいと思います。
(レポーター)最後に、古山さんご自身についてお聞きしたいと思います。
(古山さん)4年半前ぐらいでしょうか、退職してしばらくして京都に住み始めましたが、たまたま偶然なのですが、平安京創生館で案内ボランティアを募集されていましたので応募しました。
(レポーター)案内マニュアル作りをされたとお伺いしましたが。
(古山さん)はい、協同して作りました。もともと建築関係の仕事をしていて、日本建築史は勉強していましたので、ある程度は分かっているつもりでしたが、平安京模型の中で知らない建物が相当あるのでちょっとびっくりしました。ある程度は『甦る平安京』の本などに書いてあるのですが、すべての建物や施設、特に郊外ですが、何を想定されて入れられたのか、記録がなかったのです。来られた方から、これは何と聞かれても困らないようにと調べ始めたのが最初です。
もう一つは、説明の方法です。個別に対応するときはいいのですが、団体さんが来られた時に説明するシナリオがありませんでしたので、資料として標準説明例を作りました。案内ボランティアに応募される方は、基本京都好きという方ですが、説明は初心者という方もいらっしゃいます。これを覚えて頂ければ、ある程度の自信になると思って作りました。お風呂の中で声を出して覚える様にしている、という方もいらっしゃいます。
(レポーター)案内ボランティアによるミニトーク「京のあれこれ 立ち話」があるそうですが。
(古山さん)毎年度6月から2月まで月1回、案内ボランティアが得意分野を生かして、創生館のロビー(一部は3階)で、京都に係わるミニトークをしています。私も時々話をさせて頂いています。上京関係では「千本(通)の由来と一条大路北方」、「京都御所の地に住まいした女性たち-中右記を読む-」などです。ちょっと特殊ですが、明治の出水小学校出身者、「出水小学校訓導から建築技師へ-〒マークをデザインした逓信技手中島泉次郎小伝-」も取りあげました。
また、機会がありましたら聴きに来ていただければ幸いです。
最後にレポーターから一言
平安京創生館は、上京区内の京都市考古資料館(本レポート2013.10.21で紹介)、京都市歴史資料館(本レポート2016.08.24で紹介)とともに身近なところにあって手軽に歴史を学べる貴重なスポットです。創生館を存分に楽しむコツは、案内ボランティアさんとの会話にあるようです。創生館は、中央図書館や京都アスニーに行くついでにでも訪れることができます。とにかく、一度は訪問してみられることをおすすめします。
古典の日記念 京都市平安京創生館
〒604-8401
京都市中京区丸太町通七本松西入
京都市生涯学習総合センター(京都アスニー)1階
電話番号 075-812-7222
HP http://web.kyoto-inet.or.jp/org/asny1/souseikan/index.html
休館日 火曜日(祝日の場合はその翌平日)年末年始
展示時間 10:00~17:00(入場は16:50まで)
入場料 無 料
網野正観 京都市文化財マネージャー
昨年の秋に、退職を機に上京区内の改修された京町家を購入し夫婦で移り住んできました。ちょうど1年が経過したところです。地域で催される行事を楽しみながら、京町家をはじめとする文化財の保全・再生・活用に関わりたいと、勉強やお手伝いにいそしんでいます。
<クレジット>
平安京復元模型 京都市歴史資料館所蔵
陶板壁画上杉本洛中洛外図屏風 原本は米沢市上杉博物館所蔵
「京都市平安京創生館」展示