名水「滋野井」を地域の宝に!!
      ~滋野井井桁の移設プロジェクト~

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滋野学区は、下長者町通、烏丸通、丸太町通、堀川通によって囲まれた地域です。平安京の頃は政府の役人や技術職員たちが居住し勤務する官衙町、及び高級貴族の邸宅地でした。そんな滋野学区に古くからお住いの住民さん方は、元滋野中学校の校歌に「滋野井の泉のほとり集いよる」とうたわれていたことから「滋野井」の存在はご存知です。 しかし、滋野学区の名称と深い関係があるにもかかわらず滋野井にどのような歴史があるかはあまり知られていなかったようです。
そのような滋野学区の歴史に深くかかわる滋野井の井桁を、滋野学区自治連合会を中心とした住民の方たちが、滋野学区のシンボル、地域の宝として保存しようというプロジェクトの軌跡を追いました。

1.滋野井とは

(1) 滋野井の歴史

① 滋野貞主と名水滋野井

平安初期の8世紀後半~9世紀の公卿で儒者として漢詩や漢学の才能を称えられた滋野貞主が住んでいた邸宅が、『拾芥抄』によると「中御門北西洞院西(現在の北は下立売通、南は椹木町通、東は西洞院通、西は油小路通)」にあったとされ、 敷地内にこんこんと湧く泉が有名なことから滋野井第又は、滋野井泉殿と言われたことにはじまります※1。貞主の死後も邸宅は引き継がれ、この邸宅を居とした権中納言藤原公成は滋野井別当と呼ばれ、その娘の後三条天皇女御藤原茂子は滋野井御息所と呼ばれました。
※1:古代学協会・古代学研究所編『平安京提要』「一条二坊十三町」p197-8、角川書店、1994年

② 藤原成通と蹴鞠、精大明神

その後、この邸宅地は蹴鞠の達人として知られる藤原成通の別邸となりました。邸内には精大明神(せいだいみょうじん)が祀られた滋野井社が設けられたといわれています※2。精大明神は『古今著聞集』等にもみえる蹴鞠の神で、藤原成通が蹴鞠上達の願をかけたところ、祭壇に置いた鞠が転がり落ちてきて、 顔は人で手足が猿の3~4歳ぐらいの子どもの姿をした鞠の精3人が前に現れたと言われています※3。この滋野井社は現在、白峯神宮内に移されています。
※2:『平安京提要』p198 ※3:『山城名勝志』「滋野井社」

③ その後の滋野井

江戸時代、様々な記録に滋野井の名前が見えますが、明確な場所がわからないという表記が多いです※4。幕末、岩倉具視も滋野井を見に行ったそうです※5。
※4:黒川道祐『雍州府志』巻二「神社門 上」、『同』巻八「古跡門 上」
※5井上頼壽『京都民俗誌』「滋野井」

(2) 滋野井の現状

① 井戸と井桁

もとは一つであった井戸と井桁は昭和初期に、諸事情で別々の持ち主のもとで管理されることになりました。

② 井桁調査

(公財)京都市埋蔵文化財研究所の調べで、井桁の材質は花崗岩で、一辺が約180㎝と約140㎝の大きな一枚岩を4枚で組まれたものです。江戸時代によくみられる手法の石組みだそうです。

③ 石碑

井桁の横には、石碑があり碑文を京都市歴史資料館が調べました。(平成28年8月19日調査)
【原文】
滋の井
往昔 精大明神(いにしえの精大明神の)
御神水也 此水不浄之(御神水である。この水を不浄の)
事に遣へからす(ことにつかってはいけない。)

2.滋野井井桁の移設プロジェクト

(1) 移設相談の経過と上京区民まちづくり活動支援事業の申請へ

井桁は滋野井邸跡地の一部に立地する山川さんのお庭で長年保存されていました。平成27年5月、井桁の所有者のお1人である山川実さんが、敷地内にある滋野井の井桁の保存について京都市の文化財保護課に相談されました。山川実さんのお母さまは、「先人たちから預かったものだから大切にしないといけない。」と、掃除を欠かさず、生前から、井桁を公共の場所で保存されることを希望されていたそうです。
この相談をきっかけに、所有者と滋野団体連合会が協力して井桁の保存に向けた取組を進めることになり、同じ滋野学区内でしかも滋野貞主の邸跡地にある京都市教育委員会所管の「京都まなびの街生き方探究館(元滋野中学校)」に移設の可能性を相談されました。京都市教育委員会でも検討され移設の了承を受け、そこから具体的に移設の方法、移設費用の集め方、地域への周知と地域の宝としての思いの共有化等を検討することになりました。

① 『滋野井の井桁 後世に』:京都新聞(平成28年11月21日)の掲載

(記事は残念ながらリンクが外され、HP上に残っていません)
滋野井の井桁の存在と井桁を地域の宝として保存することで調整していることを京都新聞社さんがお知りになり、取材をされました。紙面には、写真入りで大きく取り上げられたため、地域の方にも、大きな反応があったそうです。自治連合会でも、今後の移設に向けての動き、実行委員会の設置についての経過の資料をつくり、平成29年2月滋野学区内に全戸配布をされました。

② 第1回滋野井井桁見学会を開催

平成29年3月26日(日)、生き方探究館内のいきいきサロンにて、滋野井井桁移設プロジェクトの経緯と今後の進め方の説明会とともに、滋野井の井桁見学が開催されました。滋野学区住民向けにチラシを配布されたところ、約60名の参加がありされました。2班に分かれて見学会場に向かいましたが、参加者は井桁の立派な様子に非常に感心されて、保存の意義に大きくうなずかれていらっしゃいました。実行委員会のメンバーの方は、想定以上の参加者数で地域の方の関心度の高さに非常に驚かれたようです。

③ 平成29年度上京区民まちづくり活動支援事業に申請

滋野学区の住民さん方に、滋野井井桁移設プロジェクトの周知とその重要性を伝えるためには、何らかのアクションをし続ける必要があり、そのためには活動資金、及びアイデアが必要となります。井桁の移設は寄付金を募りますが、活動資金までは想定されていませんでした。そこで、上京区の助成金制度(上京区民まちづくり活動支援事業)への申請をされ採択されました。
また、京都市では地域の隠れた観光資源を紹介する、京都産木材製駒札設置の推進をしています。滋野井井桁の移設完了に併せて案内駒札の設置も進めるため、上京区役所とも密に連絡を取り合いながら協力していくことになりました。

(2) 平成29年度上京区民まちづくり活動支援事業内容と移設完了の除幕式までの経緯

自治連合会では、3月に開催した井桁見学会は、周知期間が短く、予定が合わない人も多かったことも想定されましたので、再度、井桁の見学会を行い、併せて専門家による滋野井の価値についての講演会を行うことが話し合われました。また、滋野井の井桁そのものを学区の宝として地域内の多世代に認識してもらうため、学区住民の方が集う夏まつり、体育祭、餅つき大会でのPR活動も行うことになりました。
滋野井の歴史について調べてみると、まとまった研究文献がないことも判明しました。事典類、断片的な史資料を集め、地域住民の記憶も掘り起こしつつ記録を整理、保存する方法を検討する必要性を実行委員会内で確認しました。

① 第2回滋野井井桁見学会・講演会の開催

平成29年6月18日(日)10時~12時、生き方探究館体育館にて、地元住民を中心に約50名が参加されました。内容は、下記のとおりです。

・滋野井井桁見学会(2班に分かれて見学)
・利き水四種(水道水、市販の硬水、市販の軟水、麩嘉水(新滋野井))
・滋野の写真展:滋野井井桁、滋野校の歩み、他
・講演会「滋野井 京の名水・水文化について」講師:鈴木康久氏(京都産業大学現代社会学部教授)

2班に分かれて見学する間、利き水で味の違いを体験されたり、古い写真を御覧になって昔の思い出を語っていただいたりしました。生き方探究館の近くにある麩嘉さんの井戸水は、滋野井の水と同様の水脈と考えられています。井戸水を飲まれた方は他に比べて「まろやかだ」とおっしゃり、味の違いに驚かれていました。鈴木教授は、京都の地下水の流れ、特徴等について説明された後、「名水」といわれるものの特徴を、<「伝承」地域の魅力・価値+「見えない水」地下から湧き出る=不思議の「融合」名水が生まれる>と紹介されました。

<参考>

▽凡語(滋野井移設プロジェクトについてのコラム)(京都新聞平成29年6月18日)
http://www.kyoto-np.co.jp/info/bongo/20170618_2.html

▽「京の七名水「滋野井」、井桁に思いはせ 京都・上京」(京都新聞平成29年6月19日)
http://www.kyoto-np.co.jp/sightseeing/article/20170619000030

② 白峯神宮精大明神大祭の見学

平成29年7月7日(金)は精大明神大祭の日です。滋野井の横にあったといわれる滋野井社の祭神である精大明神を祀る行事を、実行委員会のメンバーと有志で見学に行きました。
蹴鞠の神様であるため、蹴鞠保存会の方々が参加され榊の奉納の後、蹴鞠を披露されました。

③ シラベル@上京 の開催

平成29年7月9日(日)右京中央図書館にて、シラベル@上京が開催され、滋野学区住民等約20名が参加されました。シラベルは、まちづくりや市民活動に携わる人たちの調査を支援する司書やNPOスタッフらのグループ「チーム・シラベル」により運営されています。多くの情報の中から調べて得た知識をラベル化(表示)し、活動の目標や根拠となるデータとして共有する手法から名づけられました※6。前述したように、滋野井そのものに関するまとまった調査研究文献がなく、断片的な史資料しかありません。したがって、今回の調査会も滋野井そのものの調査というよりは、滋野井を様々な角度から知るため、滋野に関する地名・地図、水と川の文化、水を使う商売、歴史と人物、井戸の技術の5班に分かれての調査でした。レファレンス(必要とされる資料を検索・提供・回答することによって作業を助けること)を担当する右京図書館の司書さん等が、図書館内での資料を事前に調べて、参加者の相談に応じたりして計160冊の資料をご準備くださいました※7。
参加者のみなさんは、文献を手に取り、調べたことで発見が多く、地域をもっと知って活動しようという意欲につながったようです。

※6:京都新聞社平成29年7月11日「図書館を市民活動の力に 京都「チーム・シラベル」本格始動」http://www.kyoto-np.co.jp/education/article/20170711000048
※7:今回の京都市図書館の司書さんがされた滋野井についてレファレンス結果は、レファレンス協同データベースとして、HPにアップしてくださっています。断片的な資料を取りまとめてくださり非常にありがたいです。

<参考>
「京都府庁前あたりにある「滋野井(しげのい)」と、「白峯神宮(しらみねじんぐう)」との関係について知りたい。」
http://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000221963

④ 滋野区民ふれあい夏まつりでの「滋野井井桁と滋野探訪写真展」

平成29年8月26日(土)、滋野学区の住民の方が多く集まる滋野区民ふれあい夏まつり会場内で、「滋野井井桁と滋野探訪写真展」が開催されました。井桁見学会、シラベル@上京での調査結果の模造紙、昔の滋野小学校、滋野中学校の写真などを展示し、井桁移設プロジェクトのPRをすることが目的です。上京区のマスコットかみぎゅうくんと滋野井井桁がコラボすることで、お子さんたちも楽しんでご覧いただけたようです。熱心にご覧いただいた方にお話をお聞きすると、住民だけれども滋野井の存在は知らず、井桁の写真を見られて立派な姿に非常に驚きを持たれたそうです。

⑤ 滋野区民体育祭にて滋野井かみぎゅうくん登場

平成29年10月8日(日)滋野区民体育祭にて、滋野井かみぎゅうくんが初登場しました。プラカードとともに登場し「滋野井井桁の移設プロジェクト」が紹介されました。滋野学区団体連合会の船野会長は、滋野井の井桁を地域の宝として保存していく意義を語られました。かみぎゅうくんと合体している滋野井井桁の模型は、滋野団体連合会有志の方の手づくりです。
材料選びから作り方まで、経験と英知を合せて制作された非常にリアルな作品で、大いに注目されました。いつもと違うかみぎゅうくんの姿を見て、お子さんたちも思わず駆け寄って写真を撮影していました。

⑥ 滋野新春もちつき大会にて京の七名水「滋野井」井桁をめぐる写真展、及び滋野井かみぎゅうくん登場:

平成30年1月21日(日)新春もちつき大会会場にて、滋野井井桁写真展が開催され、滋野井かみぎゅうくんも登場しました。会場内ではほかのブースもあり、スタンプラリー形式で展示をご覧いただく工夫がされていました。

⑦ 滋野井井桁移設完成除幕式及び記念講演会 開催

平成30年3月4日(日)京都まなびの街生き方探究館(元滋野中学校)にて、滋野井の井桁移設完成除幕式と、鈴木康久氏(京都産業大学現代社会学部教授)による記念講演会が行われました。これまでの滋野井の井桁移設プロジェクトのPRの努力が実り、ついに移設が完成したのです。除幕式は、滋野井と深く関係のある白峯神宮の神職によるお祓い、ご祈祷がされました。併せて京都市の駒札も設置され、滋野学区の新名所として今後活用されることが期待されます。

講演会では、名水「滋野井」の魅力と井桁保存の取組の意義について鈴木氏が講演されました。地域で守るからこその名水であり、学者であった滋野貞主邸宅跡で、後に蹴鞠の達人藤原成通の邸宅でもあったことから、文武両道であることも名水「滋野井」の特徴とされ、今後地域のシンボル、地域の宝として守り、価値を高めることを期待されていました。
<参考>
「京の七名水「滋野井」の井桁を移設 除幕式」(京都新聞社 平成30年3月5日)
http://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20180304000113

3.これからの滋野井井桁と滋野学区

元滋野中学校の歌詞でかろうじて地域にその存在が知られていた「滋野井」。住民主体の井桁移設プロジェクトは、図書館での調査、夏まつり、体育祭、餅つき大会等でのPR、井桁を具体的に想像できるように制作した模型、上京区のマスコットキャラクターかみぎゅうくんとのコラボ等様々な工夫が、非常に素晴らしいと感じました。井桁はこれから、京都まなびの街生き方探究館の正面玄関でその歴史を紹介した駒札とともに展示されることで、行き交う人々にその存在を示し、新たな名所となります。今後、地域の住民さんの手で保存、語り続けられるよう、断片的な史資料のとりまとめが期待されます。また、滋野学区のシンボル、お宝として地域で活用される今後の活動にも注目していきたいと思います。

レポーター紹介

松井 朋子(京都市まちづくりアドバイザー上京区担当)

滋野井移設プロジェクトのお手伝いをしつつ、カミングfacebookでも紹介しました。
https://www.facebook.com/kamigyo.net/posts/1336410916453891(H29,3/26)
https://www.facebook.com/kamigyo.net/posts/1438352616259720(H29,6/18)
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