京都市考古資料館は、京都市内から出土した埋蔵文化財の展示を中心とする博物館です。埋蔵文化財というのは、土中から発掘される昔の生活用品のことですね。1979年のオープン以来、京都市の発掘調査を数多く実施している公益財団法人京都市埋蔵文化研究所が京都市より運営を委託され、京都市の歴史と文化の発信の一端を担ってきています。
この建物についてもお話しましょうか。考古資料館は今年で開館34年目なのですが、実は建物自体の歴史はもっと古いんですよ。以前は西陣織物館として利用されていたのですが、その竣工が大正4年なので、来年でちょうど100周年を迎えます。外観や館内の一部は建築当初の形でそのまま残っており、京都市の有形文化財にも登録されているんですね。館内では埋蔵文化財を展示していますので、ここに来ていただければ、文化財の中で文化財を見ることができます(笑)
▲国の重要文化財に指定された「平安宮豊楽殿跡出土品」京都は貴重な埋蔵文化財の宝庫である。
<展示物や展示方法について、京都市考古資料館ならではの特徴はありますか?>
最大の特徴は、展示物である埋蔵文化財の圧倒的な収蔵量ですね。埋蔵文化財と言っても、旧石器時代の石器から江戸時代の土人形まで、その種類は多岐に渡ります。ましてや、京都は1000年以上文化の中心でもあったわけですので、そこかしこに各時代の遺跡が埋もれているんですね。京都市埋蔵文化研究所は、発掘調査における出土品管理も京都市より任されていますので、市内の埋蔵文化財のほぼ全てがこの考古資料館に集まります。その数は、今や収蔵用の箱数が16万箱以上に上ります。凄い数でしょう(笑)。私どもとしても、それらを眠ったままにしておくのは非常に勿体無く思いますので、広く市民の方の目に触れるよう様々な展示を行っています。
また、館内の展示品はすべて撮影していただくことが可能ですし、出土品を手に取って触れるオープン展示コーナーもあるんですよ。
▲この箱で16万箱以上の埋蔵文化財。皆さんはイメージができますか?
展示方法については、(1)常設展示、(2)特別展示、(3)速報展示、(4)スポット展示の4つを行っています。常設展示は2階で常時行っている展示で、旧石器時代から江戸時代にかけての出土品や遺跡写真を展示する時代別展示、平安時代の焼物の食器の移り変わりを立体的に表した土器変遷パネル等があります。常設とはいえ、しばしば入れ替えを行っていますので、初出展の出土品が並ぶ場合もありますね。
特別展示は1階東側で行っている展示です。年間でテーマごとに行う4~5ヶ月ほどの展示を2回、年末年始に行う市内の大学との合同企画展を1回、計3回を行っています。
触って楽しめる展示コーナー。全国でも先駆けた試みだったとか▲
速報展示は発掘調査の成果をすぐに見ることができる展示で、年に4回ほど1階で行っています。また、新たな事実が判明した、過去の調査での出土品も企画陳列として展示しています。出土品の分析技術や研究方法は日進月歩で発展していますので、過去の調査ではわからなかったことが、新しい技術や視点で明らかになることは珍しいことではありません。
スポット展示は1階で週替りに行っている展示です。皆さんは、京都新聞日曜版朝刊に掲載されている「遺物はささやく」というコラムをご存知でしょうか?
京都市埋蔵文化研究所が連載している考古資料についてのコラムで、スポット展示では、この掲載内容に合わせた出土品の展示を行っています。半分ほどは初出展の物ですので、皆さんも、ぜひ新聞をご覧になって当館にいらしてください。
▲京都新聞の朝刊の連載コラム「遺物はささやく」
<考古資料と聞くと難しい印象があります。どのようにすればより展示を楽しめますか?>
難しい質問ですね。考古学者の中でも意見が分かれそうです。私個人の意見としては、まず一つに美術的な美しさを感じとる方法があると思います。「この縄文土器の形が面白い」とか、「この平安時代の焼物の緑釉が綺麗」とか、「この桃山時代の金箔瓦に圧倒される」とか、そういったものですね。もう一つは、分析的にその考古資料の背景を想像する方法ですね。私などはまさにそうなのですが、土器一つにしても、その製法や製作者に思いを馳せながら歴史事実と突き合わせる。「北陸で出土した土器と東北で出土した土器が似ていたので、もしかしたら、日本海沿いに製法が伝播していったのかもしれない」といった具合にです。もちろん、楽しみ方は見る人の数だけあると思いますので、今後も、様々なご要望にお応えできるよう展示や解説を工夫していきたいですね。
▲年代ごとの地層と出土品を組み合わせたわかりやすい解説。
<山本さんはなぜ考古学に携わろうと思われたのですか?>
進路に悩んでいた高校2年生のとき、母校の中学校を訪れたらたまたま発掘調査をやっていました。その様子を眺めていたら、紆余曲折あって発掘調査の現場を体験させていただけることになりまして、それが大きなきっかけでしょうか。一言では魅力を言い表せられないのですが、発掘調査の現場では、一日ごとに新しい発見があります。新たな出土品によって、昨日まで考えていたこととは全く異なる考えが思い着くんですね。私は3年前から当館で仕事をしているのですが、それ以前は22年間発掘調査をしていました。自分が掘り出したものを皆さまにご紹介できる。このことをとても嬉しく感じています。

▲「発見の連続、それこそが考古学の魅力です。」と山本さん。
<事業の中でこれから力を注いでいきたいことは何ですか?>
市民の方へのより一層の情報発信ですね。ここ2年はパンフレットの刷新や4ヶ国語対応の展示解説パネルの作成を行ってきました。特別展示のチラシは、京都駅の観光案内所をはじめ、あちこちで配布していただいており、より多くの人の目に触れるよう取り組みを進めています。
特にお伝えしたいのは、平安時代以前の考古資料の魅力ですね。今までの特別展示を見ますと、平安時代や桃山時代、江戸時代のものについては非常に盛況であったのですが、縄文時代や古墳時代のものになると今ひとつそうではない。西京区の上里遺跡や大枝山古墳群、右京区の蛇塚古墳等、京都市には平安時代以前の貴重な文化財も沢山あるんですよ。これらの時代の歴史は考古学が一番頑張って情報を伝えないといけない分野ですので、なんとか面白さを皆さまに伝えられるよう工夫していきたいですね。
京都市考古資料館
住所:京都市上京区今出川大宮東入ル元伊佐町265番地の1
電話:075-432-3245
FAX:075-431-3307
開館時間 午前9時~午後5時 (※入館は午後4時30分まで)
休館日 月曜 (※月曜が祝日または振替休日の場合は翌日)
年末年始12月28日~1月3日
入館料 無料
★平成25年度前期特別展示『平安貴族の住まいと暮らし』を12/1(日)まで開催されています。
<取材を終えて>
3年前に副館長に就任されたという山本さん。お話の節々から考古学に対する熱い思いが伝わってきて、3時間の取材の中で多くの発見がありました。京都市生涯学習総合センター(京都アスニー)にて考古資料の講座もやられているとのことなので、ぜひ皆さま考古資料館と合わせて行かれてみてください。
【レポーター紹介】
吉田 耕平
京都に生まれて四半世紀と少し。専門学校に通うかたわら、障害者福祉施設の職員をしています。最近の趣味はランニングとスイミング。サラリーマン時代に蓄えた贅肉を落とすことがライフワークです。