令和7年度、上京区民会議と上京区役所では、地域に根付く和菓子の魅力を改めて見つめ直す連続企画「京菓子ハレモケモ。」をスタートしました。
この名前には、「京菓子をハレの日(特別な日)だけでなく、ケの日(日常)にも楽しんでほしい」という想いが込められています。
和菓子は、季節の節目や人生の節目を彩るだけでなく、日々の暮らしのそばにも、そっと寄り添ってきました。
そんな京菓子の魅力を、もっと身近に感じてもらいたい。
この企画は、そんな願いから生まれています。
上京・京菓子マルシェの開催
その取組のひとつが、令和8年2月21日(土)開催の「上京・京菓子マルシェ」です。当日は、上京区内の和菓子店21店舗が一堂に会し、それぞれの店自慢のお菓子が並びます。この日ならではの限定菓子や、作り手の想いが感じられる一日となりそうです。

上京・京菓子マルシェ
日 時:令和8年2月21日(土)11:00〜16:00
会 場:元待賢小学校 1階・講堂
内 容:上京区内にある和菓子店21店舗や器、コーヒー等の店舗が出店予定。この日ならではの和菓子に出会える一日です。
上京区には、現在およそ50軒もの和菓子店があります。
節句や年中行事に寄り添うお菓子、誰かに会いに行くときの手土産、ほっとひと息つくためのおやつ。
和菓子は、このまちの暮らしや文化、人と人とのつながりを、長い年月をかけて支えてきました。
マルシェをきっかけに、そんな上京区内のさまざまな和菓子店を知ってもらえたらという想いも込められています。
今回は、マルシェの出店者であるフランス人 和ティシエ(和菓子とパティシエの造語)Juliette Doutreleau(ジュリエット・ドゥトレロ/以下、ジュリエット)さんと、
上京区内に2023年に新たにお店を構えた兎亀屋(ときや)の西澤誘祐(にしざわゆうすけ)さんにお話を伺いました。
パティシエ×和菓子職人=和ティシエ
Juliette Doutreleau ジュリエット・ドゥトレロ さん

日本に来て7年。
ジュリエットさんの歩みはとてもユニークです。
フランスでは日本食材を扱う店で働き、星付きレストランでパティシエとして経験を積みました。
その後オーストラリアで和食を学び、日本文化への理解を深めてきました。
現在は、御菓子司 聚洸(おんかしつかさ じゅこう)の高家裕典さんのもとで、週に一度和菓子を学んでいます。
これまでの経験を柔軟に生かしながら、和菓子と茶の世界を広げていきたいと語ります。
そんなジュリエットさんが日本に惹かれたきっかけは、パリで開催された有職菓子御調進所(ゆうそくがしごちょうしんしょ) 老松・太田達さんの講演との出会いでした。その後、何度か来日を繰り返し、2024年4月から京都で住み始めました。当時通っていた「京都市国際交流会館」内で偶然見つけた、京都市が掲げる「世界文化自由都市宣言」にも強く心を動かされたとのこと。
「文化が違っても、お茶を飲み、お菓子を食べ、会話が生まれる。その時間はフランスも日本も同じです。でも、違いがあるからこそ面白いのだと思います。」
さらに、こんな言葉も印象的でした。
「和菓子は、食べることができる“言語”だと思います。
茶道では、和菓子を見て、菓銘を聞き、そこからホストの気持ちを感じ取ることができる。それがとても興味深いです。」
そう言って、この日は茶縁(ちゃえん)と名付けた、和紅茶と果物のパウダーを使った練り切りを見せてくれました。5つの菓子が円でつながり、縁を生む、素敵なお菓子でした。

聚洸での学びについては、
「店主の高家 裕典様に子どものような素朴な質問ばかりしていますが、丁寧に教えてくれます。教えることを楽しんでくださっているのが伝わります」と笑顔で話してくれました。
例えばメレンゲなど、フランス菓子と和菓子に共通する素材や技法に驚くことも多いそうです。
かつて、カステラのように海外由来の菓子が日本で独自の進化を遂げてきたように、新しい視点から和菓子の可能性を広げていきたいと考えています。
向上心と知識が豊かなジュリエットさんの発想は、伝統を重んじる和菓子の世界に、新たな革新をもたらしているのでしょう。
今後の展望
ジュリエットさんは、日本語のレベルをさらに高め、より深い部分まで自分の想いを伝えられるようになりたいと話してくれました。
日本の文化や考え方をより深く知り、その理解を土台に、ヨーロッパと日本、それぞれの文化をつなぐ存在になりたいと考えています。
和菓子という表現を通して、国や言葉の違いを越えた対話が生まれること。
その未来を思い描くジュリエットさんの言葉からは、芯の強さとキラキラとした可能性が感じられました。
京菓子マルシェでは、春を感じるフランスらしい素材を取り入れた2種類のお菓子を考案中だそうです。
当日は店頭でジュリエットさんご本人が迎えてくれます。
上生菓子と干菓子、そして学びの場―兎亀屋(ときや)さん

兎亀屋の店主・西澤誘祐(にしざわゆうすけ)さんは、京都の老舗和菓子店で10年以上修行を積んだ和菓子職人。
同じく職人である妻とともに、2023年に上京区で店を開きました。
上生菓子や干菓子の販売に加え、和菓子教室も開催しています。
うさぎと亀をかたどった干菓子や、パンを模したベーカリーシリーズは、思わず手に取りたくなる愛らしさです。

元は製麺所だったという建物を活用した店舗。
糸菱ののぞき亀甲文様をあしらった縁起の良い暖簾をくぐると、木の温もりに包まれた空間が広がります。和菓子店でありながら、モダンな雰囲気です。

「上京区は、歴史あるお寺や、町家も多く残り、お茶の時間を大切にされている方が多いまちだと感じます」と西澤さん。
和菓子で伝えたいこと

「最近は“映え”が重視されがちですが、和菓子が持つ風格や静けさを大切にしたい。
色は三色以内。盛りすぎず、丸みを帯びたやさしいかたちが心意気だと意識しています。」
と西澤さんは話します。
抽象的な意匠に、あえて具体的な菓銘をつけることもあれば、その逆もある。
五感で味わうことこそが、京菓子の魅力だと考えています。

干菓子の型は、なんとすべて自作。樹脂を使って独特の立体感を表現しています。
和菓子職人のかたわら造形をしていた経験が、今の表現につながっています。
手仕事のあたたかさを楽しみながら、上質な和三盆の風味と絶妙な食感を楽しめる干菓子です。
京菓子マルシェへの出店は、老舗店が多く並ぶ中でプレッシャーも感じたそうですが、
「同業の方々と知り合い、学ぶ機会になる」と前向きにとらえ、参加を決めました。
和菓子業界全体が元気になるきっかけになれば。
そんな想いが伝わってきます。
マルシェ当日は、どんな上生菓子と干菓子が販売されるか、楽しみです!
ハレの日も、ケの日も。和菓子のある暮らし
和菓子という文化を通して、価値観が新しい形で受け継がれ、広がっていく。
特別な日だけでなく、何気ない日常の中にも、和菓子はそっと寄り添っています。
上京・京菓子マルシェで、そんな身近な京菓子の魅力を、あらためて感じてみてはいかがでしょうか。
レポーター
「京菓子ハレモケモ。」の事業を通して、今年度は上京区の和菓子店の皆さんにお話を伺う機会が多くありました。どの方もとても丁寧で、互いをそっと応援し合うような、あたたかな関係性が印象に残っています。
「つい先日も〇〇さんと飲みに行っていたんですよ」といった何気ないエピソードを聞かせていただくたびに、
和菓子職人さんは辛党なのか、それとも甘いものもお酒も楽しむ“二刀流”なのかと、密かに想像して楽しんでいました。味やかたちに強いこだわりを持つ職人の皆さんが、日々の食や暮らしをどのように楽しんでいるのか。そんなお話も、いつかぜひ伺ってみたいと思います。